車山の天狗その1

 天狗てぇばおめえたち、お祭りか夜店で売ってるお面ぐれえきゃ知らんずらけんど、ほんなもんじゃねえだや。
 昔は山歩きばする奴は一度ぐれえは必ず出会ってよ、それこさ息なん止まるぐれタマゲテ、頭な一度で白くなってよ、2,3年も寝込んでヨイヨイになるつうぐれえだ。
 諏訪湖の西の岡谷庄に仁兵つう若い樵がすんでたけん、こいつは碁きちげえで弁当にも白黒のいり豆ばもってくうつうぐれえだ。
 ある日のこんだ。弁当ば木の枝さかけて仕事してっと、どっからか白い陣羽織着たカラスみてえなもんが出てきてよ、仁兵の弁当ば盗ってどんどん山奥さいくだよ。盗られちゃなんねえつうで仁兵は騒ぎながら追っかけただ。
 カラスは早くてよ、ときどき見えんくなるだけんど白い陣羽織だから、ときにチラ見えするのば一所懸命おっただ。峰も谷もいくつもこえて車山の方さどんどんかけて行つちもうだね。